きっと また会えるよね 約束したものね
逝ってしまった 遠い遠いそらの向こうへ
白鳥は飛び去って行ってしまった
遥かなお月様の向こうがわへ
(白鳥/ゆず より)
長い人生の途上、私たちは必ず、「他人の死」というものに遭遇する。
それがどんな人の死であろうと、死には変わらない。
本当にお世話になった人の死。
たまたまクラスとかで一緒になり、ほとんど話したこともなかった人の死。
去年9月、私ははじめて、「ある人の死」に遭遇した。
その人は、学校の知り合いを通じて知り合った、顔も知らない、
でも同い年の、それは純粋な女子だった。
彼女は、生まれつき心臓の右心房と左心房が分かれておらず、
血液の循環がうまくできない、難病にかかっていた。
最初からもはや治らない、と言われ、
1歳まで生きれば奇跡的とされていたその病気、
彼女は奇跡的に16歳まで生き抜いた。
度重なる手術を受け、そのたびに激しい痛みとつらさにさいなまれ、
みんなが楽しむべき場所である学校にもろくに行けない。
本当につらい、悲しい病気だった。
私はいわば、そんな彼女のメール友達になったわけである。
話したいことはたくさんあった。
私の学校であった嫌なこと、つらいこと。でも楽しいこと。
彼女は、そんな私の話を、文句も言わずに聞いてくれて、
そのお返しにと、日々の闘病生活の辛さを私に教えてくれた。
そして、私が体を壊した時は、私を心からいたわってくれる。
そんな優しさを、私は彼女から受け取った。
時は移り、学期が明けて9月。
突然聞いた、彼女の訃報。
最初は信じられなかった。
だって、8月の半ば、最後のメールで、
これから手術を受けて、帰ってくるのは9月って言ったのに?
治ったらまたメールでいろいろ話しましょう、って約束したのに?
いつもお互い、心を開いてどんなことでも素直に話せる仲だったのに?
なんで死ぬんだよ…。
どうして天国へ行っちゃったの?
私は彼女に対して、何もできなかった。
単なる、無力で鈍くさい一人の人間に過ぎなかったのだ。
その日、彼女の訃報が信じられず、
私は部活もそこそこに家に帰って、
即座にメールボックスを開き、「新規作成」のボタンをクリックしてキーを叩いた。
9月になりました。なんだか寒かったり暑かったり、不安定な気候ですね。
………っと、そこまで書いて、キーを打つ手がとまった。
「手術は成功しましたか?」
なんて書けるかよ。
「今、お元気ですか?」
なんて書けるかよ。
「メールの間がずいぶん開いてしまいましたね。」
なんて…、開いちゃった理由が分かってるのに、そんなこと書けるかよ。
自分の無力さを身にしみて実感した。
どうすれば良かったんだろう。
いつか、オフで会いましょう、って約束したのに…。
オフで逢えないまま、彼女は遠い場所へ行ってしまったのだ。
とりあえず、メールはできるだけ差しさわりのない話を書いて、
「送信」ボタンを押した。
その手は震えていた。
メールを送ってから1週間が経った。
返事はまだ来ない。
でも、「送信失敗」ではないから、絶対彼女のメールボックスにはあるはず。
なのに、なんで返信くれないんだよ…。
もう一度、今度はちょっと違う内容でメールを送った。
それでも彼女は返信をよこさなかった。
そこで、ようやく私は彼女の「死」を実感した。
もうメールは絶対に帰ってこないんだ、って、分かったんだよ。
もうお互いに、何でも話せるメル友でいられない、って分かったんだよ。
一度で良いから会って、笑顔を見せてほしかった。
一度で良いからオフで話して、メールみたいに語り合いたかった。
でも、それも全部、今となってはできないこと。
悔しかった。
もっと生きていてほしかった。
一度でもいいから、同じ時間を過ごしてみたかった。
最後のメール、彼女の病気については「手術頑張ってください」だけじゃなくて、
もう少しマシな返事が書けたんじゃないか。
いつもどおり、自分の愚痴とかを書きたらしたメールじゃなくて、
彼女をいたわれるようなメールを書けたんじゃないか、って。
悔やんでも悔やみきれなかった。
この頃から私は、学校でのストレスを原因に、荒れた日々を送るようになる。
喫煙、自傷、飲酒、深夜外出、駅前たむろ、ヤケ食い、一気飲み、なんでもやった。
学校の先生に、喫煙しているところを見つけられて、油を絞られたこともあった。
でも、私は喫煙をやめなかった。
周りにウソをつき続けて、周りにはもう禁煙したと言い続けて。
でも、ある日の夜、駅の喫煙所で、いつも通り煙草を吸っていた時、
ふと頭上の星空を見上げた。
そこには、見たことはないけど、想像上の彼女の顔があった。
その顔は無表情だったが、なんだか悲しそうな表情だった。
煙草を持っていた右手の力が抜けた。
きっと、彼女はこんなオレを見て悲しんでるんだ。
こんなはずじゃなかった、って思ってるんだ。
私も、煙草吸ってるとか、飲酒してるとか、
こんなはずじゃなかったのは分かっていた。
でも、やめる気はなかった。
そうか。オレは煙草を吸っちゃいけない。
ストレスを原因に、酒を飲んじゃいけない。
だって、16年間、何度も手術を受けるような闘病生活を生き抜いた彼女と、
たった数年間、学校でのトラブルに巻き込まれ続けた私、
どっちが楽か、なんて言われたら、その答えは明白だ。
だって、彼女はオレより、
ずっとずっと、ずーっと苦しい16年間を生きてきたんだもん。
たかが数年間のストレスなんかでオレも負けちゃいられないよ。
煙草のパッケージを開けると、
そこには吸っていない、真新しい煙草がまだ5本近く残っていた。
今手に持っている煙草をもみ消して、灰皿に捨てるついでに、
その5本も一緒に灰皿に捨てた。
ライターもゴミ箱に捨てた。
私は、彼女とはそんなに近い関係ではなかったが、
でもメールを通じて、いろいろなことを語り合えたし、
そういう意味では、彼女は私にとってかけがえのない「友達」。
その人の分は、オレが生きないといけない、って、やっと分かったのだ。
そのためには、煙草なんか吸っているどころじゃないぜ?
違法行為なんかやってるどころじゃないぜ?
その日から私は、飲酒、喫煙、深夜外出、全てをやめた。
そして、簡単に人に「死ねばいいのに」と言うのをやめた。
だって、もしその人が本当に死ぬようなことがあって、
それが私のせいだとしたら、もう悔やむどころじゃないし。
私はこう見えても、一応人生設計はあって、
とりあえず今志望校の、某大学に進学して勉強した後、
全日空か、中東のカタール航空に就職して、
世界中を飛び回るような人になる…、なんてことを考えている。
その夢を叶えるために、
前回の試験は、アルコールと煙草のせいで、最低な点数だったけど、
これからは心機一転、違法行為とは決別して、、
夢に近づくために努力していきたい。そう思う。
それが、彼女が遠いところへ行ってしまった今、
私にできる「唯一のこと」だから。
最後になったけど、2ヶ月か3ヶ月の短いメル友だった彼女に、
心からこの言葉を贈りたい。
「ありがとう。これからもよろしく。」
2007.04.21 Nukezo 「続・抜け蔵のつぶやき」より